2007年12月20日木曜日

ギャルゴ!!!!!-地方都市伝説大全 1巻

ギャルゴ!!!!!-地方都市伝説大全 (MF文庫 J ひ 3-1)
比嘉 智康
メディアファクトリー (2007/10)
売り上げランキング: 39866
おすすめ度の平均: 5.0
5 2本で1000円じゃ戦えないか……


だるまさまを倒した主人公。今度の敵は謎の筋肉男。ギャルゲ友達や恋のライバルが現れてさあ大変。
一巻の構成に拍手。予言者の祖母が居る以上、「予言された未来」との戦いが構造上入っていくのだろう、と思っていたが、「恋愛」を軸にして運命が組み込まれるとは予想外。この小説では物語上悲劇が要請されていながらも、全体的には主人公の成長物語としての構成を取っている。しかもその原動力が「好きな人に本当に好きになってもらう」という、非常に巧みな着地点。しかもこのキャラクターの愛着。物語に生まれるダイナミズムが半端ない。話のスケールといい問題提起の仕方といい、感心せずにはいられない。
とはいうものの、ストーリー運びにおいて少々難点があるのも事実か。種明かしがゲストの独白であるのはスタイルとしても、例えば自動販売機の告白は物語構造の核心に触れる一幕なのだから、もう少し工夫すべきではないか。

2007年12月19日水曜日

ギャルゴ!!!!!-地方都市伝説大全 126ページまで

ギャルゴ!!!!!-地方都市伝説大全 (MF文庫 J ひ 3-1)
比嘉 智康
メディアファクトリー (2007/10)
売り上げランキング: 32479
おすすめ度の平均: 5.0
5 2本で1000円じゃ戦えないか……


ダルマさまの都市伝説発生。主人公が都市伝説バスターとしての能力を持っていることが、祖母の予言により発覚。ダルマさまの呪いを受けた少女を救うため、主人公は日常に別れを告げて戦いの場へ!
予想通りの良い出来。キャラクターが立つのはエピソードの力。この短い分量にこれだけの奇想天外なエピソードを詰めているのだから面白くないはずがない。
もちろんライトノベルということでバトルでの解決もあるのだが、きちんと物干し竿というアイテムの特性を消化していて過不足なし。しかしこの小説の場合力点がそこでないのは明らかか。
感心するのは全体を通しての作品の立ち位置。世界を救うのではなく地方都市を救う主人公。運命の予言者は高名な人物ではなく物干し占いの祖母。予言所はエロ本。仲間は犬と人形。行動のきっかけは世界平和ではなく彼女の不幸を取り除くこと。このスタンスで語られる物語だから、各所にちりばめられた固有名詞(!)も親近感を持ち受け入れることができるのだろう。

「もの」よりも「こと」を書き出す小説の快楽。舞城王太郎、酒見賢一。カメラのように事物をとらえるのではなく、語り手の紡ぐ物語。無論操るだけの力量がなければ寒いことになる。

2007年12月18日火曜日

ギャルゴ!!!!!-地方都市伝説大全 34ページまで

ギャルゴ!!!!!-地方都市伝説大全 (MF文庫 J ひ 3-1)
比嘉 智康
メディアファクトリー (2007/10)
売り上げランキング: 5196
おすすめ度の平均: 5.0
5 2本で1000円じゃ戦えないか……


占い師の祖母から「人外女にモテモテ」と予言された主人公の奇妙な日常。
この時点で断言。とりあえず今年ベスト3に入る傑作。

コールドマウンテン

コールドマウンテン
コールドマウンテン
posted with amazlet on 07.12.18
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント (2006/01/25)
売り上げランキング: 13441
おすすめ度の平均: 4.0
3 熱いものが伝わってこない作品
4 想像していたより面白かった
3 戦火の光と影の絵巻

南北戦争で離ればなれになった男女。たった一度のキスしか交わしていない恋人を信じて、ジュード・ロウが脱走兵としてコールドマウンテンに戻る。
ひとつひとつのエピソードはそれなりに面白いのだが、見終わった後にいまいちすっきりしないのは全体を貫くテーマのようなものをあまり読み取れなかったからだろうか。フォーマットが恋愛映画の定型としか感じられず、殺人の罪を主人公が嘆いたところでそれが主題のようには思えなかった。「バリー・リンドン」もある種似たようなフォーマットで、エピソードを羅列していく格好ではあるものの、あちらの方には全体を見通したとき、一貫した視点を感じる。
やはり役者は上手い。映像も、寒々しい画は非常に寒々しく撮れていて美しかった。ストーリー上ラストはタイミングなど非常に作為的で盛り上がりが薄かったが、それにしてもあの画は痺れてしまう。
冒頭爆発シーンでDVDが飛んだのでいきなり見る気が削がれたのもあるかもしれない。

鉄球姫エミリー 1巻

鉄球姫エミリー (集英社スーパーダッシュ文庫 や 2-1)
八薙 玉造
集英社 (2007/09/25)
売り上げランキング: 70935
おすすめ度の平均: 3.5
3 気をつけましょう。
4 好みが分かれると思いますが……

姫様と暗殺者の決着つく。
戦闘にわかりやすい力関係がないのがやや辛い。疲れや技術で行われる地味な駆け引きを省略し、わかりやすい駆け引きにするのが必殺技の効能であることを改めて思い知らされる。
鼻血ヒロインというのはあったが嘔吐ヒロイン絵があるラノベは初かもしれない。

2007年12月16日日曜日

ナイロビの蜂

ナイロビの蜂
ナイロビの蜂
posted with amazlet on 07.12.18
日活 (2006/11/10)
売り上げランキング: 1754
おすすめ度の平均: 4.5
3 アフリカの悲劇・・
4 ジョン・ル・カレ原作の社会派サスペンス映画
3 あふりかって

「ホテル・ルワンダ」「ブラッド・ダイヤモンド」と比べても出色の出来。「ホテル・ルワンダ」はあまりにも娯楽映画の側面が強すぎ作り物の感があるし、「ブラッド・ダイヤモンド」は資本主義の自己矛盾が気になったり主人公の殉教がやや上滑りしている気がした。「ナイロビの蜂」はサスペンスの体裁を取り、アフリカへ慈善事業の光と闇を映しながらも、最も根本的な主題は「愛」である。アフリカの現実に対する問題提起ももちろん為されるが、最終的な印象としては「愛の映画だったなあ」というのが正直なところ。主人公にとってこれは「アフリカにはびこる悪と対決する正義の話」ではなく、「失ってしまった妻の生き方を追いかける話」なのであり、最終的に行き着く先は悪の告発ではなく彼女の笑顔。
主人公が妻を失って初めて号泣するシークエンスの色設計。ドライブシーンで助手席に座る妻の過去の記憶をつぎはぎして会話するシーンなど、ちょっと涙なしでは見られなかった。

鉄球姫エミリー  286ページまで

no image
八薙 玉造
集英社 (2007/09/25)
売り上げランキング: 70935
おすすめ度の平均: 3.5
3 気をつけましょう。
4 好みが分かれると思いますが……

姫様が農民と共に生活することで世界を知っていく。
流れとしては正しいのだろうけれども、もう少し紆余曲折があった方がドラマとしては盛り上がるか。ここまで姫を我が儘に書いたのだから、どうせなら突き詰めて極限まで意地を張るべきではないか。突然控えめになってしまったような感覚。

2007年12月14日金曜日

火星の倉庫

http://www.europe-kikaku.com/projects/e25/main.htm

初演劇。
でっち上げピンチにヒーロー登場でラブラブ大作戦の予定が、コンクリ詰めで海底ドボンのマフィアと鉢合わせになってさあ大変。
ハイライトは中盤の宇宙人登場か。それまで二つの軸が交差する中から生まれるドタバタの中に、上手く「彼女に告白する」という主人公の成長を埋め込んでいたが、突然それまでのリアリティを破壊する形でストーリーに宇宙人が介入することで、主人公の物語が放棄されるという、なんとも悪意に満ちた脚本。とってつけたような感動ラストと殺人者のギター弾き語りで締められる物語は、声高な皮肉には満ちているものの、しかしさらにその向こうにもう一歩踏み込めるのではないかとも感じた。物語が根源的に持つ勧善懲悪への欲求と反抗。
演劇の話芸につくづく感心。他ジャンルとの表現の違いを考える。パイナップルを手にとって「でかい」と言うだけで笑ってしまう、役者のリアリティ。ゲームや小説では恐らく笑えない。張りぼてながら劇場に巨大な宇宙人が現れることの迫力。映画のスクリーンでは絶対に味わえない「驚き」。

2007年12月13日木曜日

鉄球姫エミリー 第2章まで

no image
八薙 玉造
集英社 (2007/09/25)
売り上げランキング: 70935
おすすめ度の平均: 3.5
3 気をつけましょう。
4 好みが分かれると思いますが……

暗殺集団と姫の守護隊が大激突。
日本語としておかしい文章が非常に多くなかなか読み進められない。無駄な装飾も多すぎる。
姫の罵詈雑言は笑うところなのだろうが、全く笑えないので辛い。ただ下品な言葉を言っているだけのように思える。マスマチュリアの闘犬くらいの素敵な殺し方を希望。
これだけの枚数を掛けて仕込んだ激突で、山場を作っているのは間違いないものの、情報を全て明かした描き方のためスリルに欠ける。読者に対して情報操作するだけで、格段に面白くなるように感じた。「弓兵の存在をギリギリまで描写しない」「姫の影武者を用意していることを明かさない」「暗殺者側が影武者を予想していることを隠す」とこの3点だけで読者に対してよりスリリングな読ませ方ができるはず。因縁の二者の対決をクライマックスに持ってくるための構造だろうか? しかし、ならば弓で決着がつくのは納得がいかない。(見え見えの決着でも、「オレの因縁に手出しをするな」と一言禁止があれば、結末は盛り上がるのではないか?)
次章から姫の改心が始まるはず。そこでキャラクターに好感を持てねば困る。現状でもかなり手遅れな印象。

鉄球姫エミリー 90ページまで

鉄球姫エミリー (集英社スーパーダッシュ文庫 や 2-1)
八薙 玉造
集英社 (2007/09/25)
売り上げランキング: 70935
おすすめ度の平均: 3.5
3 気をつけましょう。
4 好みが分かれると思いますが……

特殊な鎧で能力アップの重甲冑ファンタジー世界。鉄球姫エミリーが王位継承のごたごたに巻き込まれて暗殺者に狙われる。
構成が練られていないように感じた。キャラクターは多すぎるし、ここまではエピソードを削って半分以下にしてもいい。鎧説明は暗殺者を立てるシークエンスで後づけ的に説明・影武者はエミリーの命が危険なところで初めて開かす・等々。現状では説明的すぎる構成がスピード感を殺している。
文章のテンポが悪い。肝心のギャグ会話が、余計な状況描写を入れることでかなり台無しになっている感があり。日本語として疑問に思う文章も多い。
ヒロインに感情移入できないのは最も大きな失敗に思える。高慢ヒロインが悪いのではなく、そのヒロインに「それでもこのキャラクターの味方になりたい」と思わせるような要素がないのが問題か。内に秘めた高貴さが故に周囲と意見が折り合わない、等の理由付けがないと、ただの我が儘暴力姫にしか見えず、好感など抱きようがない。後に姫が徹底的にいじめ抜かれることで改心――というパターンも可能性としてはないわけではないだろうが、全体のテンポの悪さも相俟って、読むのがやや苦痛。

2007年12月12日水曜日

クダンの話をしましょうか


未来を予言する少女・件。だが彼女はそれと引き替えに、予言された対象との縁を失い、記憶を失わせてしまうのだった。
彼女が人間よりも上位の視点を持つものと定義されており、一話ごとにゲストの悩みを何らかの形で解決していく形式を取る。ただし件は「忘れられなければならない」という悲劇を宿命づけられている。

通常ならば「超越者」として外部の視点にあるべき件が、幕間でキャラクターとしての愛着を得る部分に驚く。(「キノの旅」のキノはあくまで超越者=旅人であり、そこからキャラクターとしての愛着/悲劇は注意深く排除されている)愛着のあるキャラクターであり、なおかつ超越者であることの難しさ。本作品は悲劇を背負ってしまったヒロインに対して「キリン」という上位の(あるいは、補完する)存在を配置することによって、件の超越者としての立場と愛着あるキャラクターである悲劇を両立させていると感じた。非常に参考になる。
この巻のモチーフはペルソナとネット人格。進学クラスと普通クラスの差異を「格差社会」と表現したときは思わず吹き出しかけたが、思春期の視点から見ればまったく大げさな表現ではない。掲示板に宿るリアリティ。第2話で追い求められる「本当の私」は、未だ社会との関係性まで視野に入っているようには感じられなかったが、しかしライトノベルとしてはそれが正しいのではないか、というのが実感。
良作。

2007年12月11日火曜日

日本上空いらっしゃいませ 1巻全部

日本上空いらっしゃいませ (HJ文庫 (さ02-01-01))
佐々原史緒 タスクオーナ
ホビージャパン (2007/11/01)
売り上げランキング: 142287

テロリスト襲撃で主人公が走る喜びを取り戻す。ヒロインにライバル登場でトライアスロン大会。書き下ろしで「いずれ分かれねばならない」ふたりの運命が明示される。

前回の提案は間違い。フォーマットはオチモノというよりもむしろ「ロミオとジュリエット」。ただし悲劇の比重はヒロイン側に寄っているような印象。

主人公の走る喜びを取り戻すシークエンスはかなり疑問。主人公が走れなくなった原因には、ケガをした途端手のひらを返したような周囲の人間への不審があったはず。危機に直面した主人公が「自ら走ることを望む」ためには、それまで走れなかったことに対する十分な重み付けが必要ではないか? 走るシーンで「もしオレがここで間に合わなかったら?」と恐怖に襲われる場面を書くなど。現状、かつてのトラウマは忘れ去られているだけで、解消されているようには思えなかった。

「ロミオとジュリエット」の恋愛に対立する「大人」は決して矮小化されて書かれるべきではない。「大人」の理屈の強固さ・正しさが強まれば強まるほど、それを「愛」が打ち破ることへの期待が高まるのであり、「大人」の正しさを強調しないままに、周囲の人間が「愛」を擁護するようなラストの書き下ろしは甘いのではないか?

ボーイ・ミーツ・ガールでロミオとジュリエットの悲劇がこれだけ明確に言及されている以上、悲劇を回避する手段はやはりこの作品ならではのギミックを起点にするべきだと考える。主人公にとっての「走る」という行動が単なる肉体的な行為ではなく、またヒロインにとっての「魔法」がこの作品ならではの意味合いを帯びるようになり、両者が象徴的な意味で組み合わさることで、初めてこの作品の骨子たる「悲劇」が覆される――というのが求められる物語の構造ではないか。

2007年12月10日月曜日

日本上空いらっしゃいませ 1・2話

日本上空いらっしゃいませ (HJ文庫 (さ02-01-01))
佐々原史緒 タスクオーナ
ホビージャパン (2007/11/01)
売り上げランキング: 115119

上空に異次元人の住む浮遊大陸現れる。世界に慣れようとする異種族はスポーツ新聞を資料に有名人の名前を名乗る。かつて陸上で新記録を持っていた主人公の元へ現れるヒロインは、異種族の姫であり主人公と同じ名を名乗る。彼女はかつての新聞を読んで主人公に憧れを抱いていたのだったが、彼は交通事故が原因で走れなくなっていた。

全体的にギャグが言いっぱなしの感あり。異次元人女性が「スズキ・イチロー」と名乗ったから笑えと言うのは辛い。「ナカヤマ・マサシ」は対象年齢が高すぎる。

既存の「オチモノ」のフォーマットにタイトルから言及。キャラクターにもメタ的な言動在り。それでいて「オチモノ」というジャンルに対するこだわりや異議申し立ては感じられず。あくまでも枠内でのストーリーなら、メタ言及は蛇足では?

「どんなオチモノか」が一言で説明できない。「トラウマ持ちの主人公」はストーリーの軸ではあるが、商品としてのアピールポイントではない。あくまでメインである姫にわかりやすさが必要では? そしてそのわかりやすさが第一のフックポイントであるべきで、第一話で明示されているべきではないか?

「夢」から「現実」へと引きずり落とされた主人公と、主人公を「夢」に引っ張り上げようとするヒロインのメタ的なパワーゲームとして意識して描くと面白いのではないか、と思ったのは昨日から「御先祖様万々歳」を見ているからか。