ポーの作品は以前に「黒猫」「モルグ街の殺人」などが入った短編集を読んだと思うのだが、これで有名な短編はおよそ目を通せたか。
ゴシック小説として名高い「アッシャー家の崩壊」は、雰囲気を楽しめはしたものの、表現などになれないこともあって、堪能しきったとは言い難い。前半の作品は全体的にそんな構成で、急転直下のラストは後を引く妙な味があるものの、素っ気なく思えてしまうのも事実。
しかし後半の作品は、解説にあるとおりエンターテインメントを志向しているものが多く、十分に楽しめた。
江戸川乱歩は小さい頃に少し読んだ記憶しかないのだが、しかし振り子が揺れて迫ってくるシーンがあったことなど、今頃記憶の端に思い出したりする。
「火星年代記」でも引かれていたし、横溝正史的な見立ても「黄金虫」が祖型であろうし、知らず知らずのうちに浴びていた影響を今更のように思い知らされた。
2009年1月30日金曜日
黄金虫・アッシャー家の崩壊 他九篇
2009年1月29日木曜日
影執事マルクの手違い
2009年1月20日火曜日
2009年1月17日土曜日
リベンジ×リベンジ
2009年1月16日金曜日
ハーフボイルド・ワンダーガール
2009年1月14日水曜日
ばけらの!
一話完結の変化球の入ったハーレムモノ。単なる楽屋落ちモノになっていないのはさすが、というかまあこの作者の安心感の根っこだろう。主人公のツッコミは目新しくはないが嫌みではないところも好感。ただやっぱり全体的にフォーマットに沿った感じがして、そこからさらに突き抜けたキャラクターが感じられないのが惜しい。
残念なのは最終章で大ネタがガチーンと決まった後のあの奇跡の描写。構造的な大ネタはかっちり決まっているのに、その後に心情的にヒロインをフォローすべきあの奇跡の描写がいかにも点で、とってつけたように感じられた。ヒロインの感情も理屈では理解できるのだが、大ネタに比べて説得力が薄い。前の短編の中でヒロインが抱える単なる「キャラクター」から逸脱した引っかかりを描くことができたら、おそらくラストの奇跡を迎えた読者の感慨は違ったのではないかと思う。
2009年1月9日金曜日
“文学少女”と死にたがりの道化
ハリー・ポッターシリーズがファンタジーでコーティングされたなんちゃってミステリなのと同様、これはあくまでも『人間失格』というわかりやすい文学的ギミックをかぶったミステリ風味の読み物であり、ライトノベルの落としどころとしてはこのあたりがグッドというのは非常に良くわかるのだが、しかし作品の完成度からいったらずいぶん食い足りない。
最終章のひとつ前で明かされる過去の悲劇は「太宰治」『人間失格』という時代を越えた名著をバックグラウンドに敷いている。現在でそれが反復される最終章は、物語の力学からいって明らかに「過去の悲劇を乗り越える」必要があるのだが、それは同時にバックボーンとなった「太宰治」の『人間失格』を乗り越える作業でもある。自分にはこの作品がそれに成功しているようには感じられなかった。ってか普通太宰治以上の説得力を生むのって無理だろ。
あと序盤で「この手紙の作者が彼女である可能性」を疑いつつも、それを無意識のうちに思考の中から外してしまっていたのは、序盤のラブコメ風味のおかげだろう。最初は彼女にあの手紙を書かせたところで「おいしいところがなにもない」はずの物語なのだが、過去の悲劇が前面に出てくることで全体のテイストが全面改編されてしまう。手紙の内容の鮮やかな再解釈も、「物語全体の指針が変更されたことにより、キャラクターの役割までもが変更される」部分が大きく寄与しているのではないかと感じた。
2009年1月4日日曜日
アラトリステ
スペインのひとりの男の半生を綴った物語。
「アラトリステ」というのが主人公の名前だが、それにふさわしい内容で、様々なエピソードが時代と共に嵐のように流れていく映画の中で、ひとつの幹としてしっかり機能している。素晴らしい。なんにせよ主人公がカッコイイ。痺れる。
大航海時代斜陽のスペインが舞台であるため、もちろん作品も話が進むにつれてもの悲しい雰囲気に染まっていくのだが、しかし充分に娯楽としての強度を保ち続けているのは、ひとえにこの主人公のおかげだろう。
ラストの「語り継げ」はやや陳腐か。といっても世代の継承の話が根底にあり、次代にも希望が見いだせない流れなのだから、そういった締め方しか方法はなかったのかもしれない。
梅毒からラストへの流れは多少無理があるか。一度終わらせるべき物語を引き延ばしたために、ちょっと蛇足が生じてしまったような印象。
所々絵画的な映像があって面白くはあったが、わざとらしくて余り好きではない。